身近な人の窒息死を経験して

 去る11日、友人のI氏が亡くなった。


 I氏は僕を連れ出してよくご飯をおごってくれた。

 10日土曜の夜は二人で焼肉を食べに行っていた。その日もいつも通りのコースメニューを注文。『いつも通り』からずれていったのは食事も終わりに差し掛かっていた頃のことだった。

 突然I氏が席を立った。僕と目を合わせながら喉元を指差し、一瞬奇声を上げた。I氏はレジの方へ行ってしまい、視界から消えた。僕は追わない。しばらくして店員がお冷を持ってきた。ようやく僕は立ち上がって店内を見渡したが姿はない。いったい外に何しに行ったのだろう?

 あんまり長い間帰ってこないので電話をかけたが出なかった。会計を気にしながら表に出る。人だかり。救急車。学生証を店主に預けて車内に乗り込む。心臓マッサージ。青白い指。手首に触れる。体温はある。でも脈がなかった。

 

 遅かった。

 原因は肉を喉に詰まらせての窒息。

 

 店から出て間もなく道にうずくまるI氏は歩行者に発見されたらしい。すぐに救急車が呼ばれたが発見者には何が原因で倒れているのか見当もつかなかったため処置が遅れた。

 僕は異変を目撃したにも拘わらず20分間にわたってそれを放置し、暢気に肉を食っていたというわけだ。回復の見込めない窒息症状の第V期に入るのが数分〜15分。あのとき咄嗟に後を追っていれば結末は変わっていたと思う。

 

身近な人の窒息死から学んだ教訓
  • 動きや表情から異状を察知しにくい人もある。特に高齢者の場合、同伴者は十分気を配るべき。いつも目に見える位置にいることも重要。
  • 食べ物を喉に詰まらせたときの対処法(ハイムリック法・背部叩打法)について知っておく。
  • 緊急時の連絡先を携帯やスマホに登録しておく。
  • 遺言は十五歳以上から認められている。万が一に備え書いておくと良い。

 

 

*** 

 

 僕はスピリチュアル系の話を信じないが、今から思うと虫の知らせらしきものはあった。一つは、I氏自身が占い師に運気が最悪であると言われていたこと。I氏はそのことを当日コンビニに朝食を買いに行く道中、僕に語った。
「この間占い師に占ってもらったんだけど、もう全部運気が最悪なんちゃ」
「はあ・・・・・・具体的には?」
「全部や全部」
「たとえば?」
「仕事もお金も勉強もぜぇんぶ。今年大崎八幡宮行ったやろ? あそこで大吉引いたのに今年はホントいいこと一つもないんちゃ」
 僕は、ふーん。と思った。言い換えるなら、何とも思わなかった。占いの話もおみくじの話もとうに聞き飽きていた。

 二つ目の知らせは、コンビニで朝食を摂った後。僕はブログでストレングス・ファインダーという診断テストを受けた結果について記事を書くつもりでいたが、そのとき何となしに死んだ祖父のことも書きたくなった。日常の中で故人のことを思い出すことなどほとんどないのに。しかもストレングス・ファインダーと祖父とはほとんど関連性がないのに。にも拘わらず、僕はその二つを同じ一つの記事としてまとめようとしていた。これは本当にまったくもって不可解である。まあ、無関係なものたちを断片的に盛り込む文章というのも実験的に試していることではあるけれど・・・・・・。それにしても不思議な偶然があるものだ。

 基本的に僕はスピリチュアル系を信じない。が、今回の件を経て、悪い虫の知らせが重なったときには普段より異変への感度を高めておくことにする。