むさい風 ーその夜の人々にー

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春ながら重くむさい夜風のなかに
新しい極彩色の会堂が
恭しくその扉を開けて居る、
桎梏を解かれたように
久しく音を聞いた聾のように歓喜をもって。
 
ああその内にこそ明るい灯がともり
幾人かの観衆と温かく
吾等の古き時代との別離を語るべく
豊かな言葉が花さくべきである。
 
しかも吾等と共に富める幸福なる
『安寧秩序を脅かすための芸術家』は
その舞台の上に両足を広げ
聞き飽きた蠱惑の台詞を吐き
ラッパを鳴らしタップスをつけた靴の裏で
私の顔を踏もうとして居る。
 
アナクロニズムの先陣を切る彼等を
憤るには余りに滑稽
哀れむには余りに可笑しい。
表現の自由のために戦ふ
おお東方の老いた選手は
観客を尻目にかけ
蝶のごとく更に更に絢爛である。
 
芋のような中年男性も
手に余る「飛び行く子種」の
宣伝ビラを持って大道に微笑みながら
往き来る人にそれを手渡している。
 
吾等は其処に陽炎を見る
吾等の生活の刹那を感ずる。
 
春ながら重くむさい夜風は
私の帽子をも外套をも袴をも
一切の羞恥心をも奪おうとするように吹く、
しかも見よ、空いっぱいを飾る星
いつもよりまばゆく光る満月
おお私はそれらと固く地上の楽園を約束する。
 
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(※本作は白鳥省吾『黒い風』のパロディです)