お笑いに人生を全振りした男『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキ

笑いのカイブツ

 

評価:★★★★
この本は、笑いのカイブツの自叙伝です。

 

著者

本名、土屋祟之。1988年3月20日生まれ。大阪市出身。高卒。三組の芸人の構成作家、私小説連載を経て、現在に至る。人間関係不得意。

 

目次感想文

第1章 ケータイ大喜利レジェンドになるか死ぬか

 シド・ヴィシャスは21歳で死んだ。
 その刹那的な生き方に、ずっと憧れを抱いていた僕は、21歳で死ぬつもりで生きてきた。だから、やっと『ケータイ大喜利』に本気になろうと覚悟した時は、脳みその中の海を死に物狂いで泳いだ。
 高1のときから狂ったように投稿を始め、そのまま高校を卒業するまで、ケータイ大喜利に何百個もボケを送ったが、ついに一度も読まれることはなかった。

 

ツチヤタカユキがいかにして笑いのカイブツになっていったかの序章。
「普通の人」に理解されることを放棄して、ひたすら脇目も振らず全力疾走するツチヤタカユキの生き方はあまりに危うく、脆くて刹那的だ。

 


Sex Pistols - Holidays In The Sun

 

第2章 砂嵐のハガキ職人

 朝から3階のフードコートで3時間、ボケ出しをして、昼過ぎには変える。
 帰り道は、いつも脳が気だるい感覚で、もう一つもボケなんか考えられないような状態になる。
 大量にボケを出していたから、脳が枯れているような感覚だ。
 出力ができない状態になると、今度は入力の時間が始まる。
 小説や詩集は図書館。雑誌はコンビニで立ち読み。マンガを吸収したい時は、近所のブックオフで立ち読み。音楽はYoutubeかTSUTAYA。お笑いDVDもTSUTAYA。映画はスカパーで録画したものを、一気に消化する。バラエティー番組も同様。入力して、入力して、入力する。
 でもいくら入力しても、満たされることはない。
 僕の場合、そうやって吸収したものはすべて、笑いに変えて吐き出す。
 ただの笑いの変換装置になったみたいな感覚で生きていた。
 水や食い物よりも、笑いの摂取と排泄。それが、僕にとって生きているということだった。

 

東大生の受験勉強並みにストイック。

 

 どんな風に大学生活を過ごしているのかは、一目瞭然。親に大金を払わせて、遊んで生きている。そして、4年後には学歴を手に入れる。どんなフラついた生き方をしても、市民権がある。それでも、社会的には存在を認められている。
 そして、僕は気づく。この世界は、こいつらのために、ある世界なんだ。
 だから僕は生きるのがこんなにつらいんだ。
 そして、それは死ぬまで永遠に、続くような気がした。
 家に帰ってから、ボケを生産する。頭の血管なんか、切れてくれと願う。こんなつまらない世界から、僕はもう出て行きたいんだ。

 

ハガキ職人をしながらアルバイトで食いつなぐ日々。
「普通の人」のために作られたクソみたいな世界を呪いながら、ラジオに笑いを投下していく。それはどこかテロじみた行為のようにも思える。

 

 

第3章 原子爆弾の恋

 初めてアナタを見つけた日。
 僕が遺書を書いている間に、隣の席に誰かが座った。
 顔を上げると、金髪で、耳がちぎれそうなくらい大量に、ピアスを開けている女の子が、座っていた。

 

笑いのカイブツ×ピアスの女。
「普通」からズレている、尖っている。
そういうアウトサイダー同士が互いに惹かれ合っていく構図。グッと来る。

 

第4章 燃え盛る屍

ディレクターの懐に入りさえすればもらえる、誰にでもこなせるような仕事なんか、興味がなかった。誰かの懐に入るなんて、とてもうまくできる気がしなかった。
 仕事以前に、社会に順応すらできていない。そして、どうやら、この貧乏な暮らしが何年も続くらしい。
 なんのために生きる? 地位のために? 金のために?
 欲しかったのは、それじゃない。じゃあ、僕は何が欲しかった? 何が欲しくて、笑いに狂ってきた?
 欲しかったのは、自分のためだけの笑い声。ただそれだけだった。

 

 歯車の一つとなりて回るとき捨て行かれおり明日も神話も

 

第5章 堕落者落語

 これが僕か?
 あの頃、劇場で見た、芸人がお笑いをやめる時の、屍に変わる寸前の、あのすべてを諦めきった顔。鏡に映る僕の顔は、その時の顔をしていた。
 ここで終わるのか?
 仕方ないことなのか?
 低くくぐもった気味の悪い音が聞こえる。足元にシミができる。僕は気づくとよだれを垂らして唸っていた。頭の中でカイブツが悲痛な声をあげている。
 死ぬみたいな感じがした。
 お笑いをやめるって、死ぬみたいな感じがする。

 

ツチヤタカユキは、ネタを作る力だけじゃ仕事としてやっていけないという「社会の常識」と正面衝突する。いつだって猪突猛進に突き進むものだから反動も厳しい。このときばかりはさすがに自暴自棄に陥ってしまう。

社会って人間関係そのものだから、人間関係不得意にとってはそりゃ地獄みたいな世界に見えるだろう。
お笑いの仕事ってお客さんあって成立するもので。
演者がいて、ア、客がいる。
笑いの場を造り出すために、いろんな人たちが関わり合っている。
で、誰だって自分の職場の人とは仲良くやっていけたらいいと思ってる。
その「仲良く」っていうのは、挨拶をきちんとするとか、笑顔を向けるとか、当たり障りのない会話をするとか、そういう社会の常識に沿った基本的なコミュニケーションマナーに従うっていう意味なんですよね。だからそれができない人はどうしても関係の輪から外されやすい。
一方、人間関係不得意マンが唯一築ける「普通の人」との心地良い人間関係って、その笑いを隔てたつながりなわけですよ。それ以外の関係は壊滅してる。
つーわけで、カイブツはそりゃもう凄い勢いで周囲の人には疎外される。日常、笑いの文脈で会話するなんてことほとんどないだろうし・・・・・・。お笑い業界の中だって、そんなやつ真っ先にウザがられるだろうし。

社会ってめんどっちぃーね。 

 

第6章 死にたい夜を越えていく

 

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 ふとテレビを点けると、たまたま美しい外見に生まれただけの人間が、その顔に生まれていなければ、成立しないような、つまらないことばかり、ほざいていた。
 美しい外見にあぐらをかいた、あまりにも薄っぺらい、くだらない人間を、ありがたがって、祭り上げている世の中が、あまりにも、アホらしくてテレビの画面を睨みつけた。
 あの画面の中に、絶対に映し出されることのない、この感情。
 あの画面の中に、絶対に映し出されることのない、この絶望。
 そう思いながら、チャンネルを替えると、あの人が画面の真ん中に映った。
 テレビの中に、あの人が居た。死にたい夜を越え続けたあの人は、あの画面の中に到達した。
 死にたい夜にも、夜明けはやって来て、いつの日か、朝はやってくる。それを身をもって、証明してくれていた。
 あの人は、僕の光だった。
 その一筋の希望の光にしがみつき、死にたい夜を越えて行く。


ここで出てくる「あの人」って? 本の中では名前もコンビ名も出てこない。
でもツチヤタカユキを元から知っている人ならもちろんご存知だろう。実はテレビを見る人なら誰もが知ってるくらい有名なあの方。

番組司会、映画俳優、ラジオパーソナリティとしても活躍。
CMも出てるし、ラップもできる。
雑誌に寄稿したエッセイが人気で、文庫化したら大ヒットで、最近2作目も刊行したあのお笑い芸人と言えば・・・・・・?

そう、この人。

 

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若林正恭(38)

 

彼のほうれい線には、笑いの表現者としての挟持やら信念やら諦めやらが一緒くたに刻まれている。「イッちゃってる人が好きなんだよね」とラジオで公言するこの男だからこそ、笑いに狂った人間の最後の希望となり得るんだろう。

 

 

大喜利やってみた

バーガーショップの店員に「金返せ!」とクレーム。何があった?

包装開けたら、アンパンだった

  

夕日を見ると泣きたくなるのはなぜ?

きっと誰にも優しいから

 

こんな神さまは嫌だ

あの娘のスカートの中にいる

 

お金玉もみもみマンが『掴んで決して離さないもの』とは、なに?

希望

 

無人島に一つだけ、持っていくとしたら、なに?

付き合って3ヶ月目の彼女の、パンティ

 

 

まとめ

  • 労働者階級に自分至上主義は許されない。金持になろう!
  • 人間関係やっぱ大事!
  • 環境破壊の恋がしたい。 

 

笑いのカイブツ

笑いのカイブツ